××× | ××× | 学校。教室。2年B組。 季節は冬だ。木枯らし吹き荒ぶ。カラカラ。 二月?まさしく。その通り。 初旬から中旬にかけて賑やかになる季節だ。 華やかなオンナノコ達の群。 いやいや、華やか?そりゃ全く違う。 言い換えれば、それは例えば戦場。 例えば晴れ舞台。例えば勇気。 例えば、 「千草さんは渡さないの、」 頬杖をついたまま振り向いた。 二つに分けて編んだ髪が揺れている。 一瞬の検索。 キィワードは髪型。瞳。笑顔。声。 「何の話、」 実行結果。イコールB組女子委員長。 「またぁ。分かってるでしょう」 名前は、 「分からないわ内海さん。下らない話は止めて頂戴」 「やだ、怒ってるの、」 きゃらきゃらと笑う。 声と髪が同じリズムで揺れた。 揺れた。揺れた。揺れて。 「別にそういう訳じゃないけど」 「良かった」 それは口実。とん、と背中を押す。 それは目眩まし。溶けた真実。 「だって千草さん気になっちゃうのよね」 「どうしてよ」 「綺麗なんだもの。ライバルにはなりたくないわ、ってね」 揺れる。また揺れる。 ゆら、ゆらゆらり。り。りり。 「何だ、そんなこと」 手首のブレスレットが乾いた音を立てて。 「あなたがいつ誰に何を渡すかなんて知らないけど」 「ん」 「あたしは別に何もしないわよ」 「それは嘘でしょ」 「疑うなら、どうぞご勝手に、」 「もう、また怒る。ね、機嫌直して千草さん」 「誰が怒ってるのよ」 「怒ってないって言える、」 「……内海さん、あなたね」 溜息一つ。 「でもやっぱり気になるな」 「やめてよ。あたしそういうの興味無いの」 「ふうん、」 「それに万が一ライバル、とかそういうのになったとして」 「して、」 「あなた、あたしに遠慮とかするの」 「まっさか」 頬杖を付いた彼女の前の席。 椅子に腰掛け同じポーズを取る。 視線は縺れた糸の様に複雑に絡み。 するり。落下する一瞬。 「でしょうね」 「分かる、」 「ま、大体は」 やわやわと空気が暖まるよう。 マシュマロめいた笑顔。 「何笑ってるのよ」 「千草さん、あのね」 「何」 「本当はあたしも渡さないの」 重大な秘密めかした口調だ。 芝居がかった様子につられ。 もう一つ生まれた。それは苦笑にも似た。 「一体、あなたどういうつもりだったの」 「さっきも言ったわよ、」 「え、」 「綺麗で素敵だから、気になっちゃうのよね」 「……、」 「なぁんてね」 「……くっだらない」 「怒らないでよ、もう」 例えば包囲網。気づかせず覆いこむ。 それは発端。糸を手繰るように。 そして今日も時は過ぎゆく。 ほら、春はもう、 スグソコ。 ◆END◆
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