の様なの馨のする



◆未だ見ぬ春◆

 3rdピアス様へ


××× ×××
学校。教室。2年B組。
季節は冬だ。木枯らし吹き荒ぶ。カラカラ。
二月?まさしく。その通り。
初旬から中旬にかけて賑やかになる季節だ。
華やかなオンナノコ達の群。
いやいや、華やか?そりゃ全く違う。
言い換えれば、それは例えば戦場。
例えば晴れ舞台。例えば勇気。
例えば、


「千草さんは渡さないの、」
頬杖をついたまま振り向いた。
二つに分けて編んだ髪が揺れている。
一瞬の検索。
キィワードは髪型。瞳。笑顔。声。
「何の話、」
実行結果。イコールB組女子委員長。
「またぁ。分かってるでしょう」
名前は、
「分からないわ内海さん。下らない話は止めて頂戴」
「やだ、怒ってるの、」
きゃらきゃらと笑う。
声と髪が同じリズムで揺れた。
揺れた。揺れた。揺れて。
「別にそういう訳じゃないけど」
「良かった」


それは口実。とん、と背中を押す。
それは目眩まし。溶けた真実。


「だって千草さん気になっちゃうのよね」
「どうしてよ」
「綺麗なんだもの。ライバルにはなりたくないわ、ってね」
揺れる。また揺れる。
ゆら、ゆらゆらり。り。りり。
「何だ、そんなこと」
手首のブレスレットが乾いた音を立てて。
「あなたがいつ誰に何を渡すかなんて知らないけど」
「ん」
「あたしは別に何もしないわよ」
「それは嘘でしょ」
「疑うなら、どうぞご勝手に、」
「もう、また怒る。ね、機嫌直して千草さん」
「誰が怒ってるのよ」
「怒ってないって言える、」
「……内海さん、あなたね」
溜息一つ。

「でもやっぱり気になるな」
「やめてよ。あたしそういうの興味無いの」
「ふうん、」
「それに万が一ライバル、とかそういうのになったとして」
「して、」
「あなた、あたしに遠慮とかするの」
「まっさか」
頬杖を付いた彼女の前の席。
椅子に腰掛け同じポーズを取る。
視線は縺れた糸の様に複雑に絡み。
するり。落下する一瞬。
「でしょうね」
「分かる、」
「ま、大体は」

やわやわと空気が暖まるよう。
マシュマロめいた笑顔。
「何笑ってるのよ」
「千草さん、あのね」
「何」
「本当はあたしも渡さないの」
重大な秘密めかした口調だ。
芝居がかった様子につられ。
もう一つ生まれた。それは苦笑にも似た。
「一体、あなたどういうつもりだったの」
「さっきも言ったわよ、」
「え、」
「綺麗で素敵だから、気になっちゃうのよね」
「……、」
「なぁんてね」
「……くっだらない」
「怒らないでよ、もう」


例えば包囲網。気づかせず覆いこむ。
それは発端。糸を手繰るように。



そして今日も時は過ぎゆく。
ほら、春はもう、


スグソコ。


◆END◆  



 
××× ×××



◆お気に召されたら幸せの極み◆



 
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