落下する










 歩いていた。
 歩いている、ことに気がついた。
 どこへ向かっているのかは解らないが、不思議と疑問には思わない。
 漠然と足を、運ぶ。
 白の場所だ。
 手を伸ばした先も見えず、
 足元も靴のつま先がもやに隠される。
 少し、伸びをして。
 信史はのんびりと歩いた。ただ、ただ…




















 歩いていくと。

 まるまって眠る猫が、落ちていた。
 生きている、猫。
 暖色が広がった。




















 もう少し行く。

 一匹の蝉、落ちていた。
 死骸。
 寒色にひたされた。




















 まだまだ歩く。

 一片の葉が落ちていた。
 緑とも黄緑ともいいがたい色の。
 同じ色で満たされた。




















 おまえが落ちていたら、どんな色が視えるのかな…?






























 またしても。
 「おまえ」が誰かという疑問は浮かばなかった。
 ただその言葉が放つ香に微笑う。
 幸せそうに。






























「…!」

 唐突に道が途切れ、切り立った崖の上にいた。
 危うく落ちるところだった足を引っ込めて崖の淵にしゃがむ。

「……」

 二人のクラスメイトが、そこに落ちていた。
 …正確には落ちかかっていた。










 一人だけよ。
 どっちも助けたいなんて虫のいいこと言わないでしょうね?










 同じくクラスメイトの少女の姿をした堕天使が、耳元で優しく囁くのだ。










 …どうしろって言うんだ?







 はやく。







 ずるっと二人が滑った。
 思わず両方に手を伸ばす。
 ずっしりと、重み。







 一人だけよ。







 一人、だけ。




















 信史は目を閉じた。
 強く、閉じた。
 深く息を吸う。
 ゆっくり…ゆっくり…
 ゆっくりと。




















 ゆっくり と その 手 を 離した … … …




















 軽くなった片手にまだ温もりが残る。
 その手を添えて、彼を引き上げた。
 彼は心配そうに自分を伺う。
 彼のせいではない。彼に自分を責めて欲しくない。
 信史は彼に向かってにこりと微笑んだ。


「大丈夫だ」

 ちぎれそうだ。

「…大丈夫」

 手の代わりに、心が。

 なんて痛いの。





















 自分を呼ぶ声が聞こえる。







 隣で。

(シンジ)

 遠くで。

(三村)











 ああ。






























 おまえが落ちていった。
 色は全て消えた。

 







































 by 3rd pierce Thank you! xxx

 

 
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