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過日幻想譚
〜森博嗣先生講演会レポート〜


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1998年6月14日(日曜日) 名古屋大学にて

ミステリィ作家森博嗣先生の講演会「ミステリィと力学」が行われました

私の憶えている限りでレポートいたします(記憶力に自信はないけれど・・・)

もし間違いがありましたら、こっそりお教え下さると幸いです


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当日の配布物

*「ミステリィと力学」メニュウ(?)*
*「ミステリィと力学」資料*
*「森ドリル」*
*「森ぱふぇ」広告チラシ*


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 午後1時、森先生の講演会開始時間。主催なさっているMNUの会長大川氏のご挨拶から、 それは始まりました。会場となっている教室は人でいっぱい。もはや教室内には収まらず、 廊下にもたくさんの人がいる様子でざわめいていました。
 さて、会長のご挨拶が終了し、いよいよ森先生登場。森先生はまず「森です」と自己紹介。 そして、「森」という漢字について語り始めました・・・。


◆「森」という漢字についてのお話◆
 漢字の中でもっとも美しい形のものは「木」だそうです。 (ちなみに2番目に美しいものは「未」で、その次は「来」だとか・・・)バランスも取れているし、 このシンプルな形で木そのものの形が表せているのも良いのだとか。 そして 「「木」が2つ集まると「林」、3つ集まると「森」に。さらに4つになると「ジャングル」・・・ では5つ集まると何でしょう・・・「森林」ですね・・・。」とジョークを言う先生・・・。
 さらに「森」の魅力として「非対称」という事をあげておられました。 3つの「木」という漢字の比率が、7:3:5なのだそうで・・・ そしてこれは門松の竹の長さにも当てはまるとか。不完全の美ですね。さらに森先生は、 「もし名字が「森」でなかったら娘や息子に付けただろう名前」をあげておられましたが、 忘れてしまいました・・・でも何にせよ「森」がついたことは確かです。

◆「コリオリの力」についてのお話◆
 さて、ここで話題転換。どこかの掲示板か何かで、「講演会で森先生はコリオリの力のお話をする」 等の噂があったらしく、「そういうことなので話しましょう」といった感じでこの話題です。 まず「コリオリの力」の説明から先生はなさって下さいました。 まわる大きな中華テーブルの上でキャッチボールをすると、 その上に立っている人には分からないけれども、投げられたボールには確実に遠心力が働くので、 ボールの軌道が少しずれる・・・?(ここで「そんな大きな中華テーブルなんてないですけどね・・・」 と一人つっこみをなさる先生)ごめんなさい、実はよく理解できませんでした・・・(自分が恨めしい)。 先生も説明しながら「もうやめましょう」みたいな展開になってきて、とうとうこの話題は 「某有名作家の某「眩暈」に・・・ああ、これだと「某」じゃないですね・・・でも好きなんですよ 「某」って・・・」という先生の発言により打ち切り(でしたよね・・・?)。 それにしても、「ああ、ここ(黒板)に式が書きたくて困りますね・・・ 式を書くと説明なんて、式を指して「これがそうです」で終わりなのに・・・ 言葉で説明するのって難しいですね・・・」と仰っていた姿が印象的です。

◆SinカーヴとCosカーヴのお話◆
 さらに続く先生のお話。次はSinカーヴとCosカーヴのお話でした。曰く「Sinカーヴを積分 (微分でも可)するとマイナスCosのカーヴになり、ちょうど90度ずれたものになる」だそうで・・・。 それの例として、まわっている独楽に息を吹きかけると吹きかけた場所から90度ずれたところで傾く、とか、 この原理のお陰で自転車やバイクは転ばないのだ、という事を説明。 「自転車が転ばないのは「走っているから」ではありませんよ。こういうことを知っていると、 安心して今後自転車に乗れるでしょう?」と先生。
 それから、ブーメランのお話。ブーメランが戻ってくるのも、このSinとCosの性質のお陰だそうです。 ここで先生は、聴いている人達に「回して見て下さい」と2つのブーメランを手渡されました。 右利き用と左利き用、の2つ。もちろん私も見せていただきました。

◆どういうものがミステリィになるの?◆
 さて、ここでまた話題は急展開。森先生が「ミステリィ」と思うもの、「不思議」に思う物のお話。 まず、マカロニの話。これ、実は黒板に図解なさってらしたのですが、私、 良く分からなかったのですよ・・・「マカロニを押し出すときに切れ目が入るはずなのにないのは何故か?」 という感じだったと思うのですけれど・・・うーん。すみません。で、次が階段の電気の配線のお話。 1階と2階にそれぞれスイッチがあって、 どちらからスイッチを操作しても一つの電気がついたり消えたりする、というのありますよね? 森先生はあれの配線がどうなっているのかが気になって、考えたそうです。で、 結局自分なりの答えは出たのですが、すると今度は1階から4階までにそれぞれスイッチがあり、 どこのスイッチでも一つの電気を操作できる・・・という建物があり、 先生が出していた答えでは解決できずにまた悩んだ・・・とか。 あと、「アクアフレッシュ」という歯磨き粉ありますよね。チュウブから押し出すと、 色が3色に分かれて出てくるあれです。先生はあの歯磨き粉の内部構造が気になり、 「中は幾つかの部屋に分かれている」と仮説を立て、手っ取り早く現物を購入して切断。 すると中は・・・(以下語って下さいませんでした)。それから、 とある飛び降り自殺の名所のビル(20階建て)があるのだけれど、 何故か自殺者は皆19階から飛び降りているのは何故?とか・・・。(ここで森先生は 「19階まで階段で上がったら、死ぬ思いでしょうね・・・あ、これジョークですよ」と発言)
 森先生は色々な「不思議に思うこと」をたくさん例にあげ、 「ね、不思議でしょう・・・?」と何度も嬉しそうに仰っていました。

◆飛行機の重心のお話◆
 「飛び降り」のお話から「飛び降りる人は何故頭から落ちるのか」という話に・・・。 そして森先生は「よく「頭が重いからだ」という人がいますけれど、それはガリレオがピサの斜塔・・・ あれってたてた当初は傾いていませんでしたけれど・・・で重さの違う2つの物を落下させて実験してましたよね・・・。 そういえばどうしてガリレオってファーストネームで呼ぶのでしょうね。ガリレイ、って言いませんよね・・・。 他にそういう人は・・・ナポレオンくらいしか知りません」などといったことを語り、 話題は飛行機の重心のお話に。
 ライト兄弟の作った形の飛行機(プロペラが後ろに着いている形)と、現在の飛行機の形を比較して、 重心位置の違いとか、効率の良さとか・・・色々語って下さいました。それによると、 どう考えてもプロペラは後ろについていた方が都合が良いみたいですね。 「次世代の飛行機の形はそうなるでしょう」と仰る森先生。 「では何故飛行機は今の形になっているのか?」との問いを聴いている私たちに投げかけてから、 先生は先生ご自身が考えられた素敵な答えを下さいました。「あれは鳥の形なのですよ」と・・・。

◆理想と現実〜ミステリィが起こるとき〜◆
 「さて、ここからが本題です」と森先生。では今までのは前置き・・・?
 人間がある理想を胸に抱いていて、けれどもそれが現実になりそうにない時、 選択肢は3通りあるそうです。まず1つ目の方法は「現実を変える」。変えられないかもしれない現実を、 あえて自ら変えてしまうのです。そして2つ目はその反対で「理想を変える」。現実に妥協。 そして3つ目は「現実の見方を変える」。自分が見ている「現実」は自分という存在が「観察」 した結果としての「現実」であり「真」の「現実」ではない、といった考え方のようです。 ですから、見方を変えることによって世界はいくらでも変える事が出来るのでしょう・・・。
 ここでの例として森先生は、瓶に木の棒が差し込まれ、 瓶の口を挟んで上と下にボルトが止められているパズルのお話をして下さいました。 以前この様なパズルの写真を見せられ、「瓶の中に水が入っていて、実際には細い棒を太く見せている」 と答えたけれど、のちにデパート(?)でそれと同じパズルを見つけ、水は入っておらず、 その前で散々考え込んだ挙げ句購入して考えたそうです。そして至った結論。 「このパズルにはタネがない」・・・。そして先生は、そのパズルを実際に持参しており、 ブーメランの時と同じように回して下さいました。 (実は以前森先生の研究室にお邪魔させていただいた時にも、このパズルを見せて頂いているので、 見るのは2度目でした・・・)

◆人がミステリィに惹かれる訳◆
 人がミステリィに惹かれる訳。つまりは人がつられてしまう物のお話。 森先生はそれを3つあげて説明して下さいました。まず1番目は「富」。この「富」とは、 単にお金という意味だけでなく、名誉とか幸福とか、その様な物も含んだ広義の意味です。 そして次、2番目は「謎」。ミステリィですね。好奇心、といっても良いのかしら・・・?はて。 ・・・そして最後。3番目に残るのはなんと「妄想」(森先生は黒板に「妄想」と書こうとしてらしたのですが、 「妄」という漢字が思い出せなかったらしく「もう想」とお書きになり、 「キィボオドを打ったらこの黒板に字が出れば良いのに・・・」などと言っておられました)。
 そして森先生はさらに、「1番目、2番目、3番目の順番により高度で、知的で、人間的です」 とも発言。確かに人間以外の動物は妄想なんてしないですよね・・・。

◆ドラえもんとポンキッキのお話◆
 さて、ここら辺でそろそろ締め。森先生はまた、「不思議」について話しはじめました。 まずはドラえもんのお話。先生によると、スネ夫がよく空き地とかで飛ばしているラジコンなどを見て、 のび太くんがドラえもんに「羨ましい」と泣きついているけれど、 ラジコンなんかよりもドラえもんを持っている方がよっぽど羨ましい。 しかものび太の周りの人達はドラえもんがいることを何事もなく平然と受け止めている。おかしい。 もし本当にドラえもんが東京にいるなら、自分なら絶対見物に行く・・・とのこと。確かに・・・。 そして話はタケコプターにまで及び、「あんなの頭につけたら首を複雑骨折ですよ」とか 「もしあれを実現させるならプロペラを2つつけてそれぞれ反対方向に回転させ、 ブランコ状に掴まるための物を取り付けてそこに掴まる」とか・・・。
 「タケコプター」から派生して話はポンキッキのムックへ。 「ムックの頭に着いているプロペラは飛ぶための物だと思っていたら実は躯を冷やすための物だった」 「という事はあのプロペラは生まれたときからついていたのか?」 「南極(北極・・・?)生まれの彼は暑さに弱い・・・」 「じゃあ南極から出てこなければ良かったのでは?」等々・・・。 そして結局「不思議な事ってたくさんあるでしょう・・・?」といった雰囲気で、 講演会は終わりを告げるのでした。


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 以上が大体の流れなのですが、実は他にもまだお話はありました。ただ、 どこで仰っていたのかが思い出せないのです・・・。ということで、 その様な物ばかりを幾つか集めて下に並べておきます。


◆力学は役に立つ!!◆
 力学を知っていると色々と便利なことがあるよ、と仰る先生。そして先生は、 お煎餅を例にとってお話しして下さいました。
 ここに、ある兄弟がいます。兄は力学を知っており、弟は知りません。そして今、 兄弟の目の前に1枚のお煎餅があり、このお煎餅を、 兄と弟がそれぞれの両端を持ってお互いに力を込めて割り、分けよう、という事になります。 つまり、より相手の手に近い方でお煎餅が割れると、自分はたくさんの取り分にあずかれる、 というわけです。さて、力学を知らない弟は、ぎゅっとお煎餅を指ではさんで割ろうとします。 反対に、力学を知っている兄の方は、親指を軽く添える程度にしてあまり力を入れず持ち、 弟が割ろうと力を入れたときに、そっと親指を放しで相手の力に任せます。するとどうでしょう、 ほぼ間違いなく、お煎餅は弟の指のところで割れ、 兄はめでたく弟よりもたくさんお煎餅を食べられるのです!!(何故そうなるか、も、 森先生は説明して下さったのですが、すいません、うまく説明できません・・・) 力学を知っているとなんて役に立つのでしょう!!・・・といったお話でした。

◆ジョークジョーク◆
 森先生は、この日の講演会のために、わざわざジョークを用意してきたそうです。 おもむろに黒板に絵を描き始め、「これはファックスです・・・」と説明し始めました。 「ファックスを最近購入したのですが、何故かとんでもなく大きいボタンが付いているのですよ・・・ ええ、もう、人間を馬鹿にしているとしか思えないほどに大きいボタンです・・・。犬でも押せるくらい。 ・・・ファックスのボタンを押す犬はどんな犬でしょう?」 ・・・とこんな感じだったような気がします(細かい言い回しはかなり違っていると思いますが、 内容はこんな感じでした)。そしてしばらく後に口を開き「分かりましたか?ファックステリアですね・・・」 (あれ?なんだか違う気がする・・・すいません。とにかく「ファックスのボタンを押すのはファックステリア」 というジョークだったことは確かです・・・)。
 そしてさらに続けて「では、新聞を読みながらリラックスしているテリアは?」 (これもかなり言い回しが違うかもしれません・・・)と。ちなみに答えは「カフェテリア」でした。

◆公演メモ◆
 森先生は、小さな紙に話すことのメモを取ってきたのだ、とその紙を見せてくれました。 けれども、本当にその紙は「メモ」程度らしく(はっきりとは見えませんでしたが・・・)、 「講演会のために」とわざわざ考えた話題というのはテリアのジョークだけで、 他はほとんどアドリブ状態だったそうです・・・。


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 講演会のあとは、質問の時間。色々な人が色々な質問を森先生になさっておられました。 そして、ある程度の質問が終わったところで、講演会はその幕を閉じたのでした・・・。

 ちなみに講演会終了後、希望者は森先生と「名刺交換」をしていただけるとのことで、 私もしていただきました。ただ、私はまだ学生の身、名刺など持ってはおりません。 そこで登場するのが、手作り名刺・・・(森先生は「手書き」でも良いと仰って下さる方なので・・・) もし次の機会があるのならば、その時こそは、もう少しきちんとした物をお渡しできたらよいなぁ、 と思う次第でございます。もし、あるのならば・・・。


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西村和史(Kazushi Nishimura)



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