◆楼閣一階

 「灰色の砦篠田真由美
 「ジョーカー清涼院流水
 「塗仏の宴 宴の支度京極夏彦
 「今はもうない森博嗣
 「仮面舞踏会栗本薫
 「塗仏の宴 宴の始末京極夏彦



 
「灰色の砦」篠田真由美

 栗山深春の回想、という形で書かれているこのお話。読み終わった後にまず思ったのは、 後味が良いのか悪いのか分からない、ということでした。切ない思いの残るラスト。 でもそれは悲観とかそういうものではなくて、何かもっと別のもので・・・。 何というか・・・やりきれない感じ?・・・そんな感じでした。
 お話の流れとしては、結構すっきりと纏まっていて読みやすいと思いますが、多少、 このエピソードはいらないのではないかな、と思うところもありました。でもそのようなことは、 物語自体を楽しむ上ではあまり障害にはならないと思います。また、 私が登場人物をきちんと把握できたということは、それだけそれぞれのキャラクタに個性があり、 特徴があったということだと思いますので、その辺も良かったと思います。
 それと、このシリィズを読んでいるといつも感じてしまうことなのですが、 桜井京介の顔の描写って、なんだか笑ってしまいます。えっと・・・変に中途半端。 もう少し押さえて、単なる普通程度の美貌、にするか、 いっそのこと菊池秀行氏書くところの某おせんべい屋さんや某お医者さんのように、 何もかもを超越した美の極致、にまでもっていくか、とにかくどうにかして欲しいです。 でもまあ、若い桜井京介はいつもの彼よりも可愛かったので(苦笑)その辺は嬉しかったです。 (1998.3.13)


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「ジョーカー」清涼院流水

 謎解き編の前までは、大変普通に(この場合の普通、というのは、読んでいる途中に、 私が「何か変わってるな」と思わなかった、程度の意味です)読み進めていました。言葉遊び、 と言うものも、こじつけに近いのではないだろうか、と思いつつも、 まあそれはそれで楽しゅうございました。謎もきちんと提示されていたように思います。 ところが、謎解き編に入り、そして最後まで読み終わったのですが・・・訳わからん。 何ですかそのオチは。ミステリィじゃないよなぁ・・・。なんせ、 世界が本の中だけで完結していないのですもの・・・。 とは言いつつ、この様な少し妙な、 仕掛けがあったり騙されたりするお話、大好きなのですよね、 私(そうじゃなきゃミステリィなんて好きになってないよ・・・)。 なのでわたくし個人としましては大変面白く読めました。ただ、 受け付けない人は受け付けない内容かもしれませんね。はい。
 それと、お話の流れとしては殆ど関係ないのですが、一言。 ・・・どうしてそこでシェーンコップ?・・・喪服の下り・・・清涼院さんも、お好きなのかしらね、 銀英伝(<論点が違う)。(1998.4.5)


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「塗仏の宴 宴の支度」京極夏彦

 短編集、という形を取ってはいますが、やはり「塗仏の宴」という長編の一部。 複雑に張り巡らされた伏線がどう解かれていくのか「宴の始末」がとても楽しみです。
 文章は相変わらず凄いなぁ・・・としか言えません。他に言葉がない、 と言いますか・・・京極さんのお書きになる文章って、一種鬼気迫る物がある様に感じられます。 それが読んでいて気持ちが良いというか世界に浸ってしまう要因というか。 で、肝心の内容はといいますと、やはり一つ一つのお話にそれぞれ綺麗に決着が付いていて、 または落ちが付いていて、良いと思います。 あのお話達は、全部まとめて読むと長編の輪郭が見えるのですよね。でもそれぞれを単独で読むと、 それは短編であって全然別のお話になる。もっと大きい目で見ると、このシリイズ自体も同じ構成ですよね。 「姑獲鳥の夏」という短編から始まってとりあえず今は「塗仏の宴」まで続いている、一つの長編。 京極さんがどのように「宴の始末」をつけ、またこのシリイズの結末を定めるのか、とても楽しみです。
 さて、今回のキャラクタ達ですが、関口氏のあまりの悲惨さにもう・・・。 「姑獲鳥の夏」以来じゃあありませんか?彼のあそこまでの鬱状態って。楽しいですね全く。 あとは榎さんの出番がちと少な目で寂しかったです。「宴の始末」での活躍に期待。(1998.4.19)


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「今はもうない」森博嗣

 森先生のお話は、いつもほのかに甘くてそれが魅力の一つになっているのですが、 このお話はいつもにもましてその「甘み」が強かったように感じられました。 少し極端な表現になりますが、まるで少女漫画のようでした(この場合の「少女漫画」というのは、 あくまでイメージ的なものです)。それから、タイトルや本文中の色々な表現から、何となく、 古い写真を偶然見つけて、それを懐かしく眺めている気持ちになりました。 ・・・そのまま、かしら・・・。
 内容的には、一つの事件が起こり、それに対して様々な推理が行われていく、といった形式でしたが、 単にそれだけではなく、物語全体に大きな仕掛けが成されています。 とても簡単で無邪気(?)な感じの仕掛けなのですが、 考えながら読まずにそのままあるがままに読んでいた私はやはり引っかかってしまいました。 我ながら単純・・・。
 帯の文句には「結末は決して他人には語らないで下さい」とありますが、 これはこのお話を読む前に見るのと、読んだ後に改めて見るのとでは、格段にイメージが変わります。 結末が・・・そういう結末なのです。意味深。
 ともあれ、今までのこのシリイズのお話からすると、 文章の書き方が一人称である、などの違いは見られますが、 やはり「森先生だなぁ」という思いが致します。当たり前なのですが・・・。 ええ、森先生の書くお話がお好きな人ならば、 このお話も楽しんで気持ちよく読めるのではないでしょうか。(1998.5.8)


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「仮面舞踏会」栗本薫

 伊集院大介のシリイズ。この本は伊集院さんの助手になるアトム君こと滝沢稔君のお話です。 稔君はパソコン大好き少年で、パソコン通信がもう、生き甲斐になっているような子で、 そのパソコン通信の世界が殺人事件の舞台になっています。私はパソコン通信はしたことが無く、 インターネットしか知りませんが、それでも、この本を読んでいてかなり楽しめました。 言うなればうちわ受け的な楽しみだと思います。「知っている人は楽しい」みたいな感じ・・・。 勿論、そんなものにふれたことが無くても楽しめると思いますし、 パソコンに興味を持つきっかけになるかもしれません。
 文章はかなり読みやすいです。話し手に当たる稔君が19歳の少年(とあえて言う)なので、 優しい感じで進んでいきます。そして優しい感じ、というならキャラクタ設定そのものも。 稔君も線の細い、一人称「僕」な少年(19歳だけど少年・・・)。 チャットで知り合う松田さんという人も、ちょっと口は悪いけれど根はいい人っぽいし、 何より探偵役の伊集院さんが、もう何より優しい、優しい、 優しいとしか言えない雰囲気です。(1998.10.7)


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「塗仏の宴 宴の始末」京極夏彦

 「宴の支度」から続けた発売された「宴の始末」。タイトルの通り、 「支度」で色々と張り巡らされた謎や伏線の「始末」をつけた巻です。
 ところでこれ読んでいてちょっと気になったことがありました。別に何かのつじつまが合わない、とか そういうことではないのですけれど・・・。ええ、まず、文章の視覚的構成の仕方。 京極さんは色々レイアウトに凝る方のようなのですが、今回、右ペイジの初めに少し空白があって、 それから文章が続く、といったのが多かったのですが、これが何だか私にはちょっと・・・といった感じです。 なぜなら、その空白を見た途端に、私の頭の中までもなぜかリセットされてしまうんです(苦笑)。 で、つい今の今まで読んでいた内容が、途端に思い出せなくなってしまうんです。 ちょっと参りました (これって私の記憶回路がどうかしているのがほとんどかもしれないですけど・・・)。 あと内容。というかオチの付け方。・・・何だか軽く感じてしまいました。ジョークみたい。 勿論、軽いと言っても、今までのこのシリイズに比べて、ですけど・・・。気のせいかしら。
 テーマというかなんというか、文章中に語られている世界観は、 相変わらず「京極ワールド」といった感じ。今回は読んでいて「姑獲鳥」 を彷彿とさせられる内容があったりしてちょっと懐かしい感じもしました。 そして相変わらず凄いなぁ、などと思わせてくれましたね。
 ちなみに。今回の一番可哀想な人(亡くなった人は除外で)は、やっぱり関口君ですね(笑)。 鬱モードを発令させたらもう天下一品です。次巻には復活しているのかしら、 それとももうあのままこちらの世界に戻ってくること叶わず、 あちらの世界の住人とかになってたりして・・・(<極悪)。(1998.10.10)





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西村和史(Kazushi Nishimura)


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